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火影様に、ミズキにかけられた封印術を解いてもらった俺は、ひとまず今日の所は体を休めるという名目をもらって自宅に帰ることになった。居合わせたアスマ先生に送ってもらうことになって、自宅に着いた俺は、アスマ先生に今までの事情を話すことにした。 「そうか、ミズキの奴がそんな術をかけてたとはなあ。俺はてっきり自己暗示をかけてカカシの野郎を忘れたかったんだと思ってよ。すまなかったなあ。」 「いえ、元はと言えばミズキに油断をしていた俺が悪いんですし。きっと巧妙に自己暗示をしたように見せかけるように施術したんでしょう。だから綱手様のように医療のスペシャリストでないと見破れなかった。本当に綱手様には感謝してもし足りません。」 俺は茶をすすった。本当はカカシに一刻も早く事情を説明して、誤解を解いて、そして願わくば、まだ俺のことが特別だと思っているのならば、いや、そんなことは関係ない。俺は、カカシが好きなんだから。 「で、結局お前はカカシのことが好きなんだろ?」 そうあからさまに言われてしまっては否定することもできない。 「なんだ、両想いなんじゃねえか。やっぱり俺はお前らのノロケにつき合わされた道化だったわけだ。貧乏くじ引いたぜ。」 アスマ先生はそう言ってがはは、と笑った。 「そういやあ、術がかけられてた間のことは覚えているのか?」 「ええ、覚えていますよ。記憶のない俺とカカシ、なかなか微妙な関係だったようですね。」 「そうだなあ、かなり悩んでたみたいだからななあ。ま、任務から帰ってきたら好物でも作ってやってご機嫌取ってやりあ一日で機嫌もよくなるだろうよ。」 「じゃ、俺はお暇するぜ。任務帰りで汚れたかっこのまま来ちまって悪かったな。」 「いえ、話しを聞いていただいてありがとうございました。おかげで自分の中で整理ができましたから。」 そいつは良かった、とアスマ先生は笑うと帰っていった。 カカシはしばらくしてやってきた。ドアの前で躊躇しているのが分かって、今までそんなことしたことなかったのに、やっぱり俺のせいなんだな、と思うと心苦しくも感じたが、カカシが自らドアを開けるのを待った。 「カカシ、俺は友達だなんてもう思わねえよ。」 言うとカカシはひどく悲しそうな顔をして、だが、泣くことはなかった。どこかで納得しているような、そんな諦めにも似た様子がありありと見て取れて、やっぱりこういう風にさせちまったのは俺なんだな、なんて悔しくて悔しくて、そんな自分に腹が立って仕方なかった。 キスの仕方なんか知らない。けど、カカシとは友達なんかじゃなくて、もっともっと大切な所にいる存在だってのを伝えたくて。 「カカシが、好きなんだ。」 言えば、カカシは本当に驚いて、と、言うか俺がキスしたことにすら驚いていたのに、二度のショックでもうこれ以上はない程に目を見開いて俺を凝視ていた。 「でも、イルカは、その、」 まあ、言いたいことも分かるよ。今まで散々な目に遭ってきたもんな。ここで素直に俺の言うことが聞けない体質になってしまったカカシを責める権利、俺にはない。信じられないって顔に書いてあるのを怒れるはずもない。 「あのさ、俺が記憶を失ったのは自己暗示のせいじゃねえよ。」 「え、嘘。だって、アスマが、」 「ナルトを使って禁術を持ち出そうとしてたミズキの事件って知ってるか?」 カカシは頷いた。 「その時に俺もその場にいたんだけど、ミズキは医療忍術に詳しい奴で、油断している時に封印術をかけられたんだ。ミズキの狙いは俺の一番大切な人間の記憶を消すこと。ミズキは俺の中で一番大切な人間がナルトだって思ったんだろうなあ。まあ、それまでのミズキとの口論で、俺はナルトを特別扱いしてるような言動してたから、勘違いしたのも頷けるけど。それでナルトの記憶がない俺がナルトの精神崩壊に繋がって九尾の力を覚醒させて里をめちゃくちゃにさせてやろうって魂胆だったらしいんだが、ミズキの予想は外れたわけだ。だって、消えたのはカカシ、お前の記憶だっだろ?」 カカシは俺の説明に呆然としている。 「でも、だってアスマは病院で調べてもらったって、そこで自己暗示だって診断を受けたって。」 「後で火影様に聞いたんだが、この封印術は自己暗示に見せかけて封印術と分からないように施術する特徴があって、見極めるのが困難なんだそうだ。火影様レベルでないと判別は難しかったろうって。」 お互い向かい合って座っていたが、正面のカカシは泣きそうな、それでいてすごく嬉しそうな笑顔になった。 「イルカが好きだ。好きなんだ。」 カカシは俺に抱きついてきた。ああ、そう言えば記憶のない時でも俺を抱きしめたいと言ってきたくせに結局は抱きしめようとすらしなかったな、なんて思い出したりした。 「忘れてごめんな。もう、絶対忘れないから。」 「うん、もう、忘れないで。」 カカシはそう言って俺に優しく触れるだけのキスをした。 |